よみぴた.
// 読み上げ時間を、勘ではなく数字で
よみぴたは、Picolas が個人で開発・運営している、原稿の読み上げ時間を見積もるための道具です。 このページは使い方の説明ではなく、なぜこの道具を作ったのかを運営側から書いたものです。 実際の計算や練習機能、用途別の書き方の解説はすべて本体側にありますので、 先に試したい方・具体的なコツを知りたい方はそちらへどうぞ。
10分の枠が、7分で終わってしまった話
きっかけは仕事のほうでした。社内の勉強会で 10 分の枠をもらって、 担当していた案件について発表することになりました。 原稿を書き、スライドを作り、分量としてはこれくらいだろうと当たりをつけて本番に臨みました。
終わってみたら 7 分でした。3 分余りました。 原因ははっきりしていて、緊張して早口になっていたからです。 自分ではいつも通り話しているつもりでしたが、後から録画を見ると明らかに速い。 質疑を入れても枠が埋まらず、司会の人が間をつなぐことになりました。
途中で打ち切られるよりは気楽な失敗に見えますが、実際にはそうでもありませんでした。 時間が余ると、準備してこなかった人、あるいは内容が薄い人に見えます。 用意していた話は全部したのに、聞いている側にはそう伝わりません。 持ち時間は、超えても足りなくても同じように印象を損ねます。
引っかかったのは「なぜ書いている最中に気づけなかったのか」という点でした。 文章を書いているとき、頭の中では黙読しています。黙読は音読よりずっと速いので、 書き手の体感時間と、実際に声に出したときの時間は最初からずれています。 さらに厄介なことに、そのずれ幅は人によって違います。 自分がどれくらいの速さで読む人間なのかを、私は知りませんでした。
当時「プレゼン 10分 文字数」で調べると、目安の字数はいくつも出てきました。 ただ、その字数を自分の原稿に当てはめようとすると手が止まります。 原稿が何字なのかを数え、目安と引き算し、過不足をどこで調整するかを考える。 知りたいのは一般的な目安ではなく、 いま手元にあるこの原稿を、自分が読んだら何分何秒なのかでした。
原稿の長さは、書き終わってから確かめるものではなく、書きながら見えていてほしい情報です。 そして推定した時間は、自分の読む速さで一度は答え合わせをしておくべきものです。 よみぴたは、その両方を一つの画面でやるために作りました。
「文字数 ÷ 300」で終わらせなかった理由
読み上げ時間の推定は、字数を一定の速さで割れば求まるように見えます。 実際そのやり方でも大枠は合います。ただ、原稿によっては目に見えてずれます。理由は単純で、 日本語では 1 文字にかかる時間が文字ごとに違うからです。
ひらがな 1 文字はおおむね一拍ですが、漢字は熟語になると 1 文字で二拍以上を消費します。 逆に「きょ」「しゅ」のような拗音は 2 文字で一拍です。算用数字や英字にいたっては、 表記上の文字数と読みの長さがほとんど無関係になります。 結果として、同じ 900 字でも、漢字の多い挨拶文と会話中心の原稿とでは実際の所要時間が変わります。
よみぴたは字数をそのまま割るのではなく、原稿を読みの長さに換算してから時間に直しています。 漢字混じり率の高い硬い文章ほど、単純計算との差が出るはずです。 とはいえ、これは推定の精度そのものを売りにするための仕組みではありません。 狙いは「明らかにずれた数字を出して判断を誤らせない」ことにあります。
推定を信じすぎない設計にする
個人的にいちばん大事だと思っているのはここです。読む速さは人によって違いますし、 同じ人でも本番と練習では変わります。緊張すれば速くなり、丁寧に読もうとすれば遅くなります。 どれだけ計算を作り込んでも、推定値が実測に一致することはありません。
なので、よみぴたには推定と並んで実際に声に出して測る機能を置いています。 推定は原稿を書いている段階の道具、実測は仕上げの段階の道具、という役割分担です。 推定値だけを見て安心して本番に臨むのが、いちばん危ない使い方だと思っています。
「間」は文字にならない
もう一つ、字数からは絶対に出てこないものがあります。沈黙です。 間を置く、聞き手の反応を待つ、ページをめくる、資料を指し示す。 こうした時間は原稿に 1 文字も現れませんが、実際には確実に消費されます。 短いスピーチほど、この積み重ねが持ち時間を圧迫します。 よみぴたでは原稿の中に間の長さを書き込んで、時間に算入できるようにしてあります。
日本語専用にした、という割り切り
よみぴたには英語版がありません。国際化を後回しにしているのではなく、 この道具の中身が日本語の書き方に強く依存しているためです。
前の節で書いたとおり、推定の根拠は「表記から読みの長さを見積もる」ところにあります。 日本語は漢字・ひらがな・カタカナが混在し、同じ意味でも表記によって読みの長さが変わる言語です。 この推定ロジックは、そのまま他の言語には移せません。 単語の切れ目が空白で示され、綴りと音節がおおむね対応する言語であれば、 そもそも別の考え方で作るべきで、それは翻訳ではなく作り直しになります。
インターフェースの文言だけを英訳しても、日本語向けの推定が動き続けるだけです。 それは英語話者にとって「使えるように見えて、数字が信用できない道具」になります。 中途半端に多言語対応するより、日本語専用だと明示するほうが誠実だと判断しました。
同じ理由で、この紹介ページも日本語のみで公開しています。 Picolas の他のプロダクトは英語でも使えるものが多いのですが、よみぴたはここだけ方針が違います。 日本語の原稿を、日本語の話し言葉として読むための道具だと考えてください。
原稿を預からない
Picolas に共通する方針ですが、よみぴたも入力された原稿をサーバーへ送りません。 文字数の計算も、読みの換算も、目標時間からの逆算も、すべてブラウザの中で処理しています。 通信が発生するのはページを最初に開く瞬間だけです。
これは技術的なこだわりというより、扱う対象を考えると当然の選択でした。 スピーチ原稿には、新郎新婦の名前、勤務先、上司や恩師の実名、家族の事情、 面接であれば志望動機や転職理由が入ります。公開前提でない、私的な文章の塊です。 文字数を数えるという単純な用途のために、そういう文章を他人のサーバーに置く理由はありません。
副次的な利点もあります。送信していないので、機内や移動中で回線が不安定でも動きますし、 アカウント登録も不要です。保存するものがサーバー側に無いので、 そもそもアカウントに紐づけるデータが存在しません。 入力内容は端末内に残るため、書きかけの原稿を閉じても続きから書けます。
想定している使い方の順序
機能の一覧より、どの順番で使うと役に立つかのほうが大事だと思っているので、 作ったときに想定した流れを書いておきます。
用途ごとに入り口を分けている理由
よみぴたには、発表や面接、結婚式といった場面ごとの入り口が用意されています。 計算の仕組み自体はどのページでも同じですが、場面によって適切な読む速さも、原稿の構成も違うためです。 絵本の読み聞かせをスピーチと同じ速さで読めば速すぎますし、 面接の自己紹介に結婚式の作法を持ち込んでも噛み合いません。
各ページには、その場面に固有の注意点や構成の考え方が本体側にまとめてあります。 ここではリンクだけ置いておくので、自分の用件に近いところから入ってください。
よみぴたを作る直接のきっかけになった用途。原稿の分量に加えて、スライドの切り替えや図の説明で止まる時間が積み上がります。緊張で速くなる自覚がある人ほど、事前に自分の速さを測っておく価値がある場面です。
→ 開く持ち時間が厳密に決まっていて、やり直しが利かない場面。式全体の進行に組み込まれているため、超過も不足もそのまま影響します。避けたい言葉づかいの確認など、この場面固有の支援もここにまとめてあります。
→ 開く「1 分で」「30 秒で」と指定される代表例。緊張で早口になる前提で、少し短めに作っておく調整が効きます。書いた文章をそのまま暗唱すると硬くなるので、実測との併用が特に効く用途です。
→ 開く短い持ち時間が定期的に回ってくるタイプの用途。一度自分の読む速さを実測しておくと、以降は書いた時点で収まるかどうかの判断がつくようになります。
→ 開く速さの基準そのものが他と違う用途です。聞き手が絵と言葉を同時に追うため、スピーチより意識してゆっくり読むことになります。ページをめくる時間や問いかけの間をどう見込むかが要点です。
→ 開く式次第の中に組み込まれるため、超過が他の進行に直接響く用途。漢語表現が多く硬い文章になりやすいので、単純な字数計算との差が出やすい原稿でもあります。
→ 開く持ち時間のほうが先に決まっている場合は、時間から入る入り口もあります。
Local Suite の中での役割
Picolas では「データを端末から出さない」という一つの方針で、用途の違う小さなアプリを個別に公開しています。 その中でよみぴたが担当しているのは書いた文章を、声に出す前に整える工程です。 扱っているのがファイルではなく文章そのものである点で、他のプロダクトとは少し毛色が違います。
よみぴただけがドメインを分けているのにも理由があります。 他のプロダクトが picolasapp.com のサブドメインに並んでいるのに対し、 よみぴたは日本語専用で、想定している利用者も用途もはっきり分かれているため、 Local Suite の一員であることより単体で辿り着けることを優先しました。
よくある質問
入力した原稿はどこかに送信されますか?
送信されません。計算も保存もすべてブラウザ内で行っています。確認したい場合は、開発者ツールのネットワークタブを開いたまま原稿を入力してみてください。ページ本体の読み込み以降、原稿を送るリクエストが発生しないことが見えます。
推定された時間はどのくらい当てになりますか?
原稿の傾向を掴む目安としては十分ですが、実測の代わりにはなりません。読む速さには個人差があり、本番の緊張でも変わります。持ち時間が厳密な場面では、必ず一度は声に出して測ってください。そのための練習機能を用意しています。
英語や中国語の原稿でも使えますか?
対応していません。推定の仕組みが日本語の表記と読みの関係に依存しているため、他言語では数字が信用できません。日本語専用の道具として使ってください。
なぜ無料なのですか。
原稿を預からない構造のため、サーバー費用がほとんどかかりません。維持コストが静的サイトのホスティング代程度なので、有料プランもアカウント登録も設けていません。
スマートフォンでも使えますか?
使えます。ブラウザからホーム画面に追加しておくと、アプリのように起動できます。移動中に原稿を直したい場面が多い用途なので、そちらの使い方も想定しています。
人名の読みが違って計算されます。
読み辞書に登録してください。表記からは読みが一意に決まらない語がどうしても残るので、手動で登録できるようにしてあります。登録内容も端末内にのみ保存されます。
これから
よみぴたは個人で運営しているため、更新のペースは大きくありません。 方針としては、推定の精度を上げることよりも、 推定と実測を行き来しやすくすることを優先しています。 数字を一つ出して終わりにするより、自分の読む速さを把握してもらうほうが、 結果的に本番で役に立つと考えているためです。
使ってみて読みがおかしかった語や、こういう場面のページが欲しいという要望があれば Picolas のお問い合わせから送ってください。 用途別ページの多くは、実際に寄せられた「こういう場面で困っている」という話から作っています。